~総支配人から高校生へのメッセージ 第2話~ ザ・キャピトルホテル 東急 末吉 孝弘氏
新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大は、これまでに私たちの生活に大きな変化と影響を与えるとともに、ホテル業界においてもさまざまな対応が求められています。
ホテルの運営全般を担う“総支配人”。
総支配人という立場で、このコロナ禍をどのように受け止めているのか。
未来のホテル・ブライダル業界をめざす高校生へ、総支配人からのメッセージをお届けします。
第1話のANAクラウンプラザホテル広島総支配人の原めぐみさんに続き、第2話は、ザ・キャピトルホテル 東急総支配人の末吉孝弘さんに話を聞きました。
1963年に日本初の外資系ホテル「東京ヒルトンホテル」として開業し、それを受け継いだキャピトル東急ホテル。キャピトル東急ホテルの跡地に、東急グループのフラッグシップホテルとして2010年10月にザ・キャピトルホテル 東急が開業しました。
――新型コロナウイルス感染症はホテルにどのような影響を与えましたか?
コロナによって「すべてのものが壊された」と感じています。コロナは世界中の人々の動きを制限し、地球上で生活をしているすべての人に影響を与えました。これまで積み上げてきたもの、これまでやってきたやり方、それらすべてが平等に壊されてしまいました。しかしそれは決して悪いことだとは感じていません。これまでの常識であったことが常識でなくなり、新たにこれからの仕事のスタイルを作り上げることが求められます。昔からのやり方にとらわれず自分たちで新しい価値を作る。そこには新たに作る喜びがあります。それらを託されたのは今を生きる若い世代なのです。
――すべてが壊された今、これまでのご経験をどのように伝えていく必要があるでしょうか?
過去の経験がすべて無駄になったわけではありません。これまでにもさまざまな危機に直面してきました。大変だったこと、楽しかったこと、いろいろなことを経験してきました。これからは、経験の引き出しの中から「新しい時代に通用するものは何か」という発想がないと生き残れません。経験に裏打ちされた新しい発想をする必要があると考えています。
――今、ホテルの総支配人として大切にしていることは何ですか?
働いている従業員を不安にさせないことを心がけていました。それは危機感を持たないようにするということではありません。人は、先行きが不透明であると不安になります。その不安感を取り除くために先に何が起こるのか、しっかりと見通しを立てることが求められます。自らが積極的に動いて課題を明確にして、その課題を解決することで前に進むことができます。
――従業員の皆さんにはどのようにメッセージを伝えたのですか?
ITツールを活用して常にコミュニケーションをとることも大事ですが、こういう時代だからこそ、直接話をすることを大事にしています。ビデオレターやメールではなく、年4回のゼネラルスタッフミーティングを通して、すべてのアソシエイツ(従業員)に対して、総支配人自らの考えなどを直接対面して話しています。それに加えて、アナログではありますが“GMメッセージ”をA4サイズのレターの形で館内の全アソシエイツの目が届くところに掲示して発信しています。
ザ・キャピトルホテル 東急 総支配人 末吉 孝弘氏
2017年4月1日、ザ・キャピトルホテル 東急の総支配人に就任した末吉氏は、就任後初のゼネラルスタッフミーティングにおいて開口一番に「日本一のホテルになる」と語った。世界的に権威あるトラベルガイド「フォーブス・トラベルガイド」が発表した2021年の格付けにおいて、「ホテル部門」で最高評価の5つ星を獲得。
――コロナによる影響でスタッフの皆様の意識や提供するサービスに変化はありましたか?
最初の半年は、ウイルスの実態が分からないことから従業員全員に恐怖心や迷いがあったことを感じました。お客様や自分たち従業員にとって何をどこまですることが安心安全につながるのか試行錯誤しながら解決方法を見出していたと思います。しかし半年が経過し、段々と、何を、どのように対策すれば感染が防げるのかということが分かってきました。その上で、私たちのホテルはお客様との絆を深め、期待以上のサービスをお届けする必要があるという認識のもと、ラグジュアリーとは何かを自問自答しながら軌道修正することができました。
その後は「身体的に握手ができなくても、心と心が握手をしている状態にするサービスがどれほど大事なのか」「お客様と距離感を物理的に縮めなくても心理的に縮める方法がある」といったことを追い求めることができるようになってきました。私たちは、間合いを大事にしながらお客様の心の琴線に触れるようなサービスを心がける必要があると感じています。
——コロナを経験して、新しい価値(商品)も見出しているのでしょうか?
新しい商品を生み出すときは、単なるアイディアだけではなく、ストーリーや思想が欠かせません。こんな時代だからこそペットと一緒に過ごす時間を大事にしたいお客様が大勢いらっしゃいます。今ではペットと一緒に過ごせるホテルも増えてきましたが、これまでの日本のホテルでは多数派を優先し、少数派と思われているペット連れのお客様をお断りする傾向がありました。ペットと一緒に過ごせる宿泊プランを提供することができても、ペットと一緒にホテルに入館されたときに他のお客様の視線から受けるストレスを解消する必要がある。そしてペットが苦手なお客様にも嫌な思いをさせない方法を考える必要もある。それぞれの課題を解決し、ペットと一緒に過ごせる場所を提供する「ドッグフレンドリー宿泊プラン」を商品化することで、これまでに私たちのホテルに来られなかったお客様が、喜んでご来館くださる可能性が新たに生まれました。
――コロナ禍におけるこれまでの経験から、ホテル業界はどのような人材を求めているのでしょうか?
これまでにインバウンドのお客様が増えたときに語学力が堪能な人が求められる時期があったように、時代背景によって業界が求める人材像は変わってきていると思います。しかしながら、その中でも決して変わらないこともあります。それは「この業界が好きである」ということ。人は好きであることでなんでもやろうとする力が働きますよね。私は、そういった人にホテル業界をめざして欲しいと思います。
そして「コミュニケーションスキルがある人」。例えば、語学力が堪能でお客様と会話をすることができてもコミュニケーションが取れていない人がいるように思えます。本来コミュニケーションとは、表面上で情報を伝える会話ではなく、お客様(相手)を知ろうとする力を働かせ、お客様(相手)を理解した上で感動させたい、喜ばせたいという気持ちで行動すること。そして共感し、感動し、お客様の心が動いたという反応が現れるまでがコミュニケーションだと考えています。
――お客様(相手)の心が動くという反応はどうやって知ることができるのでしょうか?
コミュニケーションのめざす先とは、伝えた相手の行動を誘発すること。昔の日本人のように、感動を心の中に噛みしめて表情にださないという人はあまりいないと思います。お客様が感動し、共感し、伝えたことをわかってくださったら、必ず言葉や仕草、そして行動に現れる。そのことが「また来るよ」とリピーターになってくださることに繋がるのです。このリピーターになってくださることこそ、コミュニケーションがとれた結果の現れだと感じます。
――コロナは観光業界に大きな影響を与えました。ホテルやブライダルの仕事に興味を持つ高校生にとってホテル業界はめざすべき業界の一つには変わりはないのでしょうか?
目の前で企業が倒産している、レストランを閉める、という事象だけを見ると諦めてしまうかもしれません。高校生の皆さんには、高校生という立場から考えて先をしっかりと見て欲しい。実は自身の気持ちに聞いてみると、観光業界は近い将来に失われてしまうどころか、これまで以上に発展する可能性を秘めていることに気づくはずです。
「高校の卒業式は中止」「友人ともっと同じ時間を一緒に過ごしたい」というようにコロナによる自粛や制限を経験してきましたが、コロナが収束した後も、このような気持ちをもったまま我慢をするでしょうか。コロナ禍は、私たち人間にとって「人と直接触れ合いたい」「気の合う仲間と一緒に過ごす時間が欲しい」「気分転換をしたい」という根源から持っている大事な気持ちに、今一度気づかせてくれました。このような気持ちに応えるために必要な産業こそが、観光産業なのです。私たちは今、ホテル、ブライダル、エアラインなどの観光産業の必要性をより感じているはずです。ホテルやブライダルを含めた観光産業はこれから急成長する産業と確信しています。人が必要となるときに、必要なスキルを持った皆さんが観光産業で活躍する頃には、大きなチャンスが待ち構えていると思います。
――末吉さんはこれまでに「ホテル業界は二極化が進む」と提言されています。顔認証でのチェック・インなどで人との接触を可能な限り省く「非接触型ホテル」と、徹底して人と接する・徹底的にサービスを感じることができる「とことん接触するホテル」の二極化。コロナを契機にその二極化が一気に進む中で、ラグジュアリーホテルとしてお客様としっかりと接する必要性を再認識し、これまでのやり方にとらわれず新しい価値を提案することができる環境をポジティブにとらえている姿が印象的でした。業界発展のために高校生の皆さんのように若い人たちに夢を持ってもらい、魅力を感じて欲しいという末吉さんの思いをお聞きし、観光業界で活躍することの楽しさと業界の秘めた可能性を改めて感じました。本日はありがとうございました。
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ホテル総支配人に聞く、これからの観光業界シリーズ
第1話 ANAクラウンプラザホテル広島総支配人 原 めぐみ氏
第2話 ザ・キャピトルホテル 東急 末吉 孝弘氏
第3話 ハイアット セントリック 銀座 東京 内山 渡教氏
第4話 メルキュール東京銀座 佐々木 博氏(前編)
第5話 SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE 中 弥生氏
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